県立広島大学 大学院経営管理研究科(HBMS) ビジネス・リーダーシップ専攻長/教授 江戸 克栄

“防災マーケティング”というキーワードで
さまざまなメディアでもご活躍の江戸克栄教授。
江戸教授の下、MBAを取得した
小誌発行人・前田社長が
これからの時代のビジネスについて語り合った。
マーケティング理論を
避難行動に生かせないか
前田
今日は県立広島大学大学院経営管理研究科「HBMS」の江戸克栄教授の研究室におじゃましております。江戸先生、今日はよろしくお願いします。私、江戸先生には“教え子”として大変お世話になっております。先生、その節は大変ありがとうございました。
江戸
いえいえ、今日はよろしくお願いします。
前田
ここHBMSは、主に社会人が働きながら学び、MBA(経営修士)が取得できる大学院です。私は2018年に入学し、江戸先生にご指導いただいて2020年3月に修了しMBAを取得しました。最終のプレゼンテーションでは、 “共有価値の創造”(CSV)という考え方が、年間1万7000人いると言われるヒートショックによる事故を防ぐのに役立つ住宅が造れないかと研究し、最終的にはモデルハウスも造りました。
江戸
そうでしたね。お仕事でお忙しい中大変でしたが、何とか提出できて良かったですね。
前田
江戸先生は防災マーケティングというテーマでさまざまなメディアにも出ておられ、ご存知の方も多いと思いますが、改めて現在のご活動についてご紹介願えますでしょうか。
江戸
元々はマーケティングが専門分野で、マーケティング・リサーチ、特に市場調査関係の研究を長らくやっていました。7年前に県立広島大学に着任し教鞭を執っていますが、2018年に西日本豪雨の被害を目の当たりにしました。そこで、自分が専門とするマーケティングの技法や知識、知見などを防災や減災、避難行動の促進に向けて活用できないかと考え、「防災マーケティング」を提唱しています。またSDGsということが言われるようになる以前から研究を続けるサステナブルなマーケティングというテーマも併せて取り組んでいます。
前田
「防災マーケティング」とは具体的にどういうものでしょうか。
江戸
例えば避難を呼びかけるのもマスコミュニケーションを通じて細かく支援していく。また、前田社長がおっしゃっているようなCSVの発想で、企業が社会的な価値と経済的な価値の両方を高めるにあたり、防災の観点から入っていただけるようなアイデアや仕組みを考えることもねらいです。安心安全の仕組みを、住まいに関するサービス業と組めたらいいと思います。
前田
私どものような企業では、どういったことができるのでしょうか。
江戸
そうですね、例えば警備保障システムと連携するというような、ものだけの安全ではなく、そこに住まう、生活する人の安心安全ということが考えられますね。
HBMSでの”学び直し“で
広島の中小企業を活性化
前田
このHBMSは中国地方でMBAが取得できる唯一のプログラムです。HBMSができた経緯をお聞かせ願えますか。
江戸
湯﨑知事がスタンフォード大学のMBAホルダー(保持者)だったこともあり、広島に社会人向けの高等教育機関をつくり、中小企業や中小規模組織を活性化させるリーダー人材を育成したいという強い思いで、2016年に設立されました。特にヘルスケア、農業関連などの分野には力を入れています。
前田
私は住宅分野ではありますが、27歳で独立して以来、どこかで学び直しがしたいという思いを長らく抱いていました。勉強の時間が取れるか不安でしたが、思い切って参加しました。
江戸
あんなに忙しい中で、よくいらっしゃっていたと思いますよ。
前田
何とか卒業できました(笑)。学び直しの意味で、最近よく「リスキリング」という言葉が出ていますね。
江戸
学び直しの端緒は「リカレント教育」でしょうか。主婦の方々のように、1度仕事を離れた後、また戻るときに、今の技術に追いつくための学び直しですね。その後、もっと大きな枠組みで学ぶこと、人生100年時代といわれる現代において第2の人生のための学びが「リスキリング」と言われるようになったのでしょう。
企業にとって長続きする
バランスの良いSDGsとは
前田
私はSDGsという考え方に触れる以前に、アメリカで“ロハス”という言葉に出合い、2005年に「ロハススタジオ」というお店を立ち上げました。当時はまだピンときてくれる人が少なかったようですが……。
江戸
私の著書に『循環するファッション』という本があります。2014年の出版ですが、当時はSDGsという言葉はありませんでした。まだ日本では充分に取り上げられていなかったサステナビリティという考え方に基づき、ファッションが環境と社会に対してどのような役割を果たすべきか、提言を行いました。日本でのSDGsという言葉の認知率のデータを取ったところ、4年前は10%くらいだったのが、今は80%を越えています。ようやく時代が追いついてきたかなと感じています。
前田
築100年とか150年の古民家をリフォームすることがあるのですが、釘も使わず木材だけを組んだ工法で建てられた家もあります。木って剛性とねばりがあるので、歳月を経て強さが増していくんですね。
江戸
 “建てては壊す”ではない、サステナブルですよね。企業がSDGsを実践するには、自分たちで価値をつくることがポイントでしょう。企業経営はボランティアではないので、CSVの発想で社会的な価値を高めながら利益を追求するという2項両立が、長続きするのに必要ではないでしょうか。
前田
最後に、江戸先生は住まいについてはどのようにお考えでしょうか。
江戸
子どものころ、ニューヨークで一軒家に住んでました。5年前にたまたま訪れたら、まだそのまま建っていた。築90年くらいかな、うれしかったですね。家って新築だけがいいんじゃなくて、古い家をリフォームして大切にしながら価値を高めていける。こうした大切なことを今の日本人は忘れかけているように思います。古い家の免震・耐震化に補助金を入れるとか、税金を安くするとかがあってもいいんじゃないかと思います。
前田
なるほど、住まいをリフォームする私どもも励まされるお話しです。今日はお忙しい中、ありがとうございました。
県立広島大学
大学院経営管理研究科(HBMS)
ビジネス・リーダーシップ専攻長/教授
江戸 克栄
東京都出身、慶應義塾大学卒業。2011年から文化学園大学服装学部准教授、2014年より教授。2016年より現職。趣味は野球、ゴルフ。広島の好きなところは、程よくコンパクトで自転車であちこち行けること。