アクト中食株式会社 代表取締役社長 平岩 由紀雄

明治44(1911)年創業の老舗の総合食品卸会社の4代目、平岩社長。
飲食店応援への思いと行動について、
食と空間それぞれの立場から前田社長と語り合った。
広島の『ファーストコールベンダー』でありたい
前田
アクト中食さんといえば、広島の人なら誰でも名前を聞いたことがありますよね。ルーツはお米屋さんなのですね。
平岩
ありがとうございます。弊社は明治44年にお米の集荷業としてこの広島の地で創業しました。今年で109年です。
前田
100年を超えて広島で事業を続けておられるのはすごいことですね。私どものビジョンも「地域で輝く100年企業になる」です。これまでの会社の歴史を教えていただけますか。
平岩
創業当初は街なかのお米屋さんとか、配給所といわれていました。昭和30年ころから広島にも飲食店が増えてきて、そうした飲食店にお米を卸していました。私の父の代から、お米のほかに調味料やお酒なども扱うようになりました。
前田
平岩社長は4代目ですが、経営スタイルなど独自の路線を意識されていますか。
平岩
弊社の経営理念は、父がつくった「三方よし」。お得意様の繁栄・仕入れ先様の発展・全社員の幸福です。私も父のやり方を継承していますが、それに加えて意識しているのが「ファーストコールベンダー」を目指すことです。つまり、広島で飲食店をオープンして食材を仕入れようというときに、皆さんが最初に〝アクト中食さんに頼もう”と思ってくださるような、地域で一番の存在になることです。そのためには、ただモノを売るだけではいけない。お客様が困ったときに相談に乗ることが大切。お客様のためにどこまで力になれるかが信頼につながります。
前田
ほんとうにそうですね。地域で一番、まさに私どもの目指すところと同じです。
卸業の固定観念を取り払い
さまざまな業種のハブに
前田
現在は食品卸のほかに、飲食店の課題解決や商品開発、開業支援など幅広く展開しておられますが、これもお客様のニーズに沿って事業領域を拡大されたのですか。
平岩
やっているうちに増えていったというか。実は調味料や酒以外の精肉、魚介、生鮮野菜を扱うようになったのも自分の代からです。これらは料理の中心になる大切な食材。これらを飲食店さんが夜中や早朝から市場を回って一つ一つ買い歩くのは大変です。
前田
確かに、それぞれの食材のプロに任せたらずいぶん助かりますね。
平岩
いいものを安く提供してお客様に喜ばれたい。コツコツと人材を見つけては声をかけてきました。私はいろいろな分野のプロとプロをつなげていきたいのです。子どものころに「水滸伝」のマンガを読んで、すごい人たちが集まって一致団結してすごいことを実現していくのを見てとても憧れました。
前田
分かります、夢ですよね。アクト中食さんには農産物や物流、システム、流通などグループ会社が6社もありますね。
平岩
どれも人材との出会いの中で生まれました。自分が面白いと思った方々に「いつか一緒にやりましょう」と声をかけていくうちにいろいろな得意分野を持つ人が集まった。その人たちに活躍してもらうためにグループ会社をつくりました。
前田
卸業だけでなく小売りもやっておられますね。「プロマート」など一般の方にもなじみがあるお店を運営されておられます。
平岩
はい、1995年に1号店をつくりました。最初は小売りのことが分からず試行錯誤しながらでしたが、徐々に売上が上がっていきました。ピンチもありましたが、小売りのやり方に卸問屋なりのやり方を入れ込んで脱しました。
前田
縦割りではなくシナジーを発揮されたのですね。
平岩
10人が10のことをやる足し算ではなく、異分野で力を合わせてやるダイナミズムで成し遂げられることが広がります。
今は能力を伸ばし
成長する格好のチャンス
前田
お客様は飲食店さんがメインですね。新型コロナウイルスの影響で飲食店さんも大変な状況だと思いますが、どのようにサポートされていますか。
平岩
サポート本部・営業本部で、さまざまな助成金や融資、支援策などの情報提供を行っています。労働局と直接やりとりするなどして、正確で素速い情報把握に努めています。飲食店さんの中にはこうした情報を知らない方も多いんです。
前田
アクト中食さんは「届ける系おうちで食べん祭」のサポート会社ですね。私も好きなお店のメニューをテークアウトしています。
平岩
「届ける系おうちで食べん祭」はフードデリバリーサービスのWoltと連携し、デリバリーやテークアウトサービスの利用を促進して飲食業界の活性化を図るキャンペーンです。フィンランドからスタートしたWoltですが、日本上陸は広島が第1号です。広島の方々にどしどしご利用いただきたいですね。
前田
私どももコロナでイベントが開催できなかったりして危機感を持って身構えています。どうしたら飲食店さんが元気になれるでしょうか。
平岩
この環境の中で生きていける形態に進化しないといけないと考えます。現在、弊社の事業の異なる分野が連携して新しい価値を創造する「JAPANフードターミナル」という事業を展開しています。商品開発や協力工場での量産化、販売促進、量販店さんへのアプローチなどを支援しています。コロナ禍の今は立ち止まって考え、成長することが可能です。いかに能力を伸ばすか。転んでも、何を学んで何をつかんで起き上がるかだと思います。
前田
平岩社長とは経営者の会でご一緒させてもらっていますが、前向きな姿勢にはいつも刺激を受けています。最後に、ご自身と住まいとの関わりについて聞かせてください。
平岩
住まいといえば、コロナ禍での外出自粛で家の掃除を初めてやりました。いつも前だけを見て忙しく走っていて自分の足元を見ることがなかったのです。長年のうちにたまった不要品の片付けをして家がすっきりすると住まいに興味が出てきました。自分の足元に目が向いて、家のことも楽しいと思えるようになった、パラダイムシフトです。
前田
では次はいよいよリフォームでしょうか(笑)。今日はお忙しい中、ありがとうございました。
アクト中食株式会社
代表取締役社長
平岩 由紀雄
1967年生まれ。老舗米穀商の4代目として2005年より代表取締役社長を務める。出身大学の関西学院大学ではグリークラブに所属し、趣味は歌とゴルフ。