作曲家・ギタリスト 森本 ケンタ

広島でシンガーソングライターとして活動し、
数々のテレビ番組への出演でも知られる森本ケンタさん。
発声障害やギタリストへの転向を経て、20周年を迎えた今、
思うことを旧知の仲である前田社長と語り合った。
好きで住み始めた広島に
自分の歌が流れている幸せ
前田
このたび発売された著書『転んだらかっこよく立ちあがる』を拝読させていただきました。
森本
ありがとうございます。
前田
全然知らなかったことがたくさん書かれていたので、一気に読んで、すぐにメールを差し上げたんです。
森本
一番に感想をくださったのが前田社長でした(笑)。本に書いたように、機能性発声障害を患い、今は歌は辞めてギタリストとして活動しています。
前田
驚きました……。そのことについて詳しく聞く前に、まずは森本さんのこれまでについて伺えますか? ご出身は神戸なんですよね。
森本
そうです。母子家庭で、毎日忙しい母親を少しでも癒やすために曲を作るようになって。高校1年生の頃から神戸でストリートライブをしていました。ところが高校3年生のとき、母に「あんた、ストリートライブだけでやっていけると思ってるん?」と言われまして。私もムキになって「ちょっと見とけよ」と、旅に出たんです。
前田
高校生で旅に出たんですね。
森本
はい。5000円だけ持って出たのですが、広島でお金も無くなり、あまりにもお腹が空いて「死ぬかもしれない」と思いました(笑)。そこで、どうしたら人の足を止められるかということを考えて歌うようになって。大事なことをたくさん学んだのが広島でした。
前田
広島では、いろんな出会いがあったようですね。
森本
はい。本通で歌ったときに、後援会の会長をしてもらっている医師に出会い、「泊まる場所を提供するからまた広島においで」と言ってもらえたんです。
前田
似島の診療所の先生?
森本
そうです。実は20周年のコンサート中に、客席を歩いて回っていたら、その先生が見に来てくれていて。僕、思わず、抱きしめてしまったんですよ。そのとき、耳元で「ようやったの」って言ってくれたんです。実の父親ではないですが、父に褒められたようで、うれしかったですね。
前田
私が特に記憶に残っているのは、テレビでのお姿です。テレビ新広島の『ひろしま満点ママ!!』とか。
森本
あの番組で一気に知名度が上がりました。一時期は4局全部にレギュラー番組があるという異例の状態になって。普通はそういうことはしないみたいなのですが、僕としてはとてもありがたかったですね。
前田
いろんなところで森本さんの歌が流れていましたよね。
森本
「フレスタ」さんでは今も流れています。少し恥ずかしいですが、すごく幸せなことだと思っています。
出会いと別れを経験し
ギタリストに転向
前田
本では、あっちゃん(タレントの故・西田篤史さん)や、東京でお世話になったという東ちづるさんとの深いご縁についても書かれていましたね。いろんな方とのつながりがあって今がある中で、意識していることはありますか?
森本
あっちゃんがいないことは、まだ受け入れられていないのですが……。この仕事をしていると、多くの人と出会うんです。その中で、頭から離れない出会いを感じるようになりました。そういう方との関わりを大切にするようになり、僕自身も初対面で良い印象を残せるよう意識しています。
前田
順調に活躍されていた中、機能性発声障害を患われたんですね。
森本
ひどくなったのは、10周年を迎える少し前ぐらいですね。どんどん声を出すのがキツくなり、マネージャーに「無理して歌わなくていいよ」って言ってもらって踏ん切りがつき、2018年にギタリストに転向しました。
前田
大変でしたね。
森本
歌を歌うために生まれてきたと思っていたので、簡単には割り切れなかったんです。本当にどん底で、人の歌を聴くのもつらくて。
前田
全然知らなかったです。
森本
本が出てから、以前ファンだった方からも「全然知らなくてごめんなさい」というお手紙をたくさんいただきました。3年ほど前からパーカッションの森川泰介さんと、チェロの川岡光一さんという、すばらしい仲間に恵まれて、「森本ケンタトリオ」としてステージに上がるようになり、やっと自信を取り戻すことができました。
挫折の先で手に入れた仲間と
音楽、そしてコーヒー
前田
音楽を続けていく中で、信念のようなものはあったのでしょうか?
森本
辞めようとしていたので、かっこいいことは言えないんですよね。でも、挫折の向こう側に、こんなに楽しい「今」が待っているなんて思いませんでした。今ようやく、自分の音楽を見つけることができ、昔より好きだと言ってくれる方もいて。続けてきて本当に良かったと思っています。当時は目の前が真っ暗で……。だから僕、宅地建物取引士の資格も取ったんですよ。
前田
難しい試験なのに、すごい!
森本
家族を養うためにも、何か資格を取ろうと思いまして(笑)。
前田
住まいに対して、何か思いがあれば教えてください。
森本
僕は、広いリビングに仲間が集まって語り合う時間が好きなんです。カーテン越しに柔らかい光が差し込むリビングで、観葉植物があって。
前田
そこにおいしいコーヒーがあるとさらにいいですが、森本さんはコーヒーも作られたそうですね。
森本
趣味でイタリアンエスプレッソの業務用の機械を購入して楽しんでいたら、「そごう」さんから声をかけていただきまして。ずっと寿屋さんの豆が好きだったので、コラボさせていただきました。もう少しコクが欲しいな、もう少し香り豊かに、と考えながらブレンドしていく感覚が、音楽を作るときに近いんです。
前田
そうなんですね。コーヒーも味わってみたくなりました。
森本
ぜひ。僕がコーヒーを淹れて、音楽を演奏するライブもしているんですよ。これから「森本ケンタトリオ」のライブもどんどん増やしていきたいと思っているので、ぜひ多くの方に楽しんでもらいたいですね。
作曲家・ギタリスト
森本 ケンタ
2005年よりシンガーソングライターとして活動。
発声障害をきっかけにギタリストへ転向し、現在はチェロとパーカッションを加えた「森本ケンタトリオ」としての活動やコーヒーブランドの運営など、多彩な活動を展開。