株式会社DoTS 代表取締役社長 谷口 千春

広島市佐伯区皆賀の「ミナガルテン」立ち上げや
広島駅ビル「minamoa」に開いた「ミオバイドッツ」など、
共創をテーマに活動する株式会社DoTSの谷口社長と
小誌発行人・前田社長が、広島への思いを語り合った。
新しい広島駅ビルに誕生した
瀬戸内の共創拠点
前田
今日は広島駅ビル「minamoa(ミナモア)」にある「miobyDoTS(ミオバイドッツ)」にお伺いしています。谷口社長はミナモアの開業アドバイザーも務めていらっしゃるんですね。
谷口
ナモアを運営する中国SC開発さんが“新しい駅ビルは単なるショッピングの集積地ではなく、広島に住む人の生活、人生に寄り添うような場所でなければ”という考えをお持ちだったんです。それで駅ビルを、新しい情報に触れたりするコミュニティーの場所にしようと思われた中で、私が5年前に佐伯区に開発した「まちづくりプロジェクト『ミナガルテン』」に興味を持ってくださり、新駅ビル開業アドバイザーとして参画しないかと声を掛けてくださいました。実はこの話をいただく以前から一人一人、いわゆる点と点がつながって、線になって、線がいっぱいできると面になって、そうやってみんなの情熱を束にして瀬戸内を世界に向けて発信できる場が駅にあればいいなと思っていたので、お引き受けしました。
前田
ミオバイドッツがどんな場所なのか、説明していただけますか。
谷口
飲食する場と広島のすてきなものが買える場、それからプロモーション事業です。店舗の奥側はフレンチレストランになっていて、有名レストランのシェフが立ち上げからメニュー考案まで入ってくれています。入り口側にはジェラートスタンド、ビールスタンドがあり、気軽に立ち寄り、ゆっくり過ごせる場所になっています。また、広島の23市町それぞれの魅力を発信する常設ショップでは、特産品や工芸品を販売しています。訪れた方々が自由に交流できるスペースもあって、ぱっと見ると「いったい何のお店なんだろう?」と思われるかもしれませんが、目指しているのは“広島の人を育てる・発掘する場、新しいイノベーション、インキュベーション(企業や新事業の創出をサポートする)の場”にすることです。
前田
地域内外で活躍する若者や経営者などが自由に発信する「ピッチ(短いプレゼンテーション)」という試みをされていますね。
谷口
「縁側ピッチ」という名前で、いろいろな方がそれぞれのテーマで15分ほどのショートピッチをします。不定期開催ですが誰でも気軽に聞きに来ていただけます。
前田
そういうところからも、いろんなビジネスアイデアやユニットが生まれてきそうですね。
一人一人の幸せと
地域共同体で編み上げる幸せ
前田
佐伯区のミナガルテンには、妻と一緒に何度も行っているのですが、どなたが企画されたんだろうと、興味を持っていました。ベーカリーやカフェ、書店などいろいろな方が出店している複合型コミュニティー施設や、周囲にはまちづくりプロジェクトによる住宅もある。こちらをつくろうと思われた経緯を教えてください。
谷口
あの場所は私の祖父の代から園芸の卸売り事業をやっていました。父の病気をきっかけに事業を閉じることになったのですが、その広大な跡地が廃屋のように空くことになり、私は長女として、そして建築とまちづくりを職業としてきた者として、このまま放っておいてはいけない、何とかしなくては、と企画を始めました。その頃、私も妹も人生の大きな転機にいた時期で、この場所を新しくするにあたり「私は何のために仕事をして、何のために生きるのか」という、本質的なテーマを探求しました。自分の中にそういう柱が無くては、あれだけの大きな事業を成し遂げられないと思ったんです。模索する中で“ウェルビーイング”という言葉に出合いました。“心も、体も、社会においても、全てが幸福で満たされた状態にあること”を意味しています。自分の心の中の平和を整えることは、家族や仕事の幸せにもつながります。ミナガルテンのテーマは「人と暮らしのウェルビーイング」。一人一人の幸せと社会全体の幸せをどうすれば両立して進めていけるか、という大きなテーマで開発を始めました。
前田
私どもの事業は建築分野ですが、やはり“どうあるべきか”という、柱になるコンセプトやビジョンがないと、変化の激しい社会環境に振り回されてしまうんですね。いまお話を伺って、あの場所にはそういう大きなコンセプトがあったんだと納得しました。
広島を出た人たちが
広島と”関わり直す“きっかけの場に
前田
谷口社長がこれからやってみたいことを聞かせてください。
谷口
旧広島陸軍被服支廠を平和を発信する場にしたいと動いています。建築で「ゲニウス・ロキ」という言葉があります。ラテン語で“土地の地霊”という意味なんですが、土地の記憶、つまり、その場所ならではの特性や歴史、文化、社会への影響力があって、それを生かす形で建物を建てることで、場所に込められた思いを最大化できるのだと思います。陸軍用の、戦争のための服を作っていた場所が、平和のためのデザインを伝えていく場所になれば。過去にフタをせず歴史を振り返りながら、今に留まらず、未来へのイノベーション、平和を生み出す場所に変わったらいいなと思います。
前田
そのためにも、ミオバイドッツがそのきっかけの場になればいいですね。
谷口
そうですね。駅にあるということを生かして、広島を離れた人が出て行ったきりにならず、広島と関わる場になれたら。例えばUターンや2拠点ワークのきっかけになるような、媒介装置みたいになればいいなと思います。
前田
広島は転出超過ワーストワンと言われていますからね。
谷口
広島は移民の時代から外に出る意欲的な県民性でしょう。移民先と広島とで助け合ったり交流したりして、世界中に広島県民がいると思えば逆に豊かかも。出て行くことを問題視するのではなく、広島から外に出て大きな世界を見て学んで、その力を広島に還元してもらうつながり方ができれば、むしろポジティブかなと思います。
前田
谷口社長ご自身の経験を広島に持ち帰られて、こんなすてきな場所をつくってくださいました。今日は元気の出るお話をありがとうございました。
株式会社DoTS
代表取締役社長 谷口 千春
2020年、広島市佐伯区に「まちづくりプロジェクト『ミナガルテン』」を立ち上げ、数々の賞を受賞。
2023年より株式会社ミナサカ代表として、広島駅ビル「minamoa」の企画に携わる。2024年、株式会社DoTSを設立。
多忙な日々だが、余暇はさまざまな地域を訪れてローカルの魅力に触れている。