ラフォルジュロン デコラシオン 鉄装飾家アーティスト 岡本 祐季

軽やかで繊細な、透明感すら漂う
唯一無二の鉄の作品を生み出すアーティスト、岡本さんと
その作品を住宅装飾に取り入れる小誌発行人・前田社長が
作品への思いや、夢を持つ大切さについて語り合った。
唯一無二の鉄の作品を生み出すアーティスト、岡本さんと
その作品を住宅装飾に取り入れる小誌発行人・前田社長が
作品への思いや、夢を持つ大切さについて語り合った。
光と影が表情を添える
植物を思わせる鉄の作品
植物を思わせる鉄の作品
前田
今日の対談は鉄装飾家アーティストの岡本祐季さんをお迎えしました。岡本さんは日本でも珍しい女性の鍛冶師で、鉄を熱して叩き、鍛えることで作品を作り上げておられます。私どもと岡本さんとのご縁は、以前施工したお客様から「岡本祐季さんの作品を使いたい」というご要望をいただいて、お願いをしたのがきっかけです。弊社からは多分無理も言ったんじゃないかと思うのですが、すばらしい作品を作っていただきました。作品そのものもすばらしいのですが、それが住宅の壁にはめ込まれ、そこに家具などが入ると更に映えるんです。
岡本
ありがとうございます。作品がきれいであることはもちろんなのですが、住宅のように置く場所を固定するものは情景を考えることが必要ですね。
前田
先ほどアトリエでたくさんのサンプル作品を拝見しました。堅い鉄なのに、どこか植物を感じさせるデザインで、岡本さんらしい個性があふれていますね。
岡本
基本は光と影を大切にしています。鉄という素材は重たくて固いものですが、繊細に見えるデザインにすることで表現できます。一般的な鉄作品は重厚で無機質な雰囲気のものが多いですが、私は他とは違う、私らしいものを作りたい。軽やかで有機的なラインがすごく好きなんです。
前田
デザインに取りかかるときに、意識されていることはありますか。
岡本
自然を意識することが多いですね。なんて言うか、目で捉えられない空気の流れだとか、透明感まで出せれば。ガラスなど他の素材と組み合わせれば簡単に透明感が出るのかもしれませんが、それでは鉄の作品ではなくなってしまうので、できるだけ鉄そのもので、どれだけ透明感を出せるかということを考えています。
前田
大きな作品ではどんなものを手掛けられていますか。
岡本
パセーラの1階から2階へのエスカレーターの両脇の装飾や、ひろぎんホールディングス本社ビル奥のカフェスペースの天井から吊るされた2mのオブジェ。安佐市民病院のエントランスの吹き抜けには7mの巨大なオブジェを制作しています。
前田
なるほど、いろいろなところに置かれているから、気付かないうちに作品に出合っているでしょうね。実は岡本さんの「ゆきぱん」を家でも愛用しております。
岡本
ありがとうございます、私が鉄を1点1点鍛造して作ったフライパンです。
前田
昨日は「ゆきぱん」で地鶏を焼いていただいたのですが、本当においしかったです。いろいろな食材で試していますが、妻は最近メロンパンを焼くのが気に入っていて「ゆきぱん」のすばらしさをいつも熱く語っています(笑)。
岡本
それはうれしいです! とても評判が良くて、受注販売も始めています。
”女性には難しい”と言われても
諦めずに道を拓いた
諦めずに道を拓いた
前田
岡本さんは、なぜこの仕事をやろうと思われたのでしょうか。
岡本
バブル時代、新卒で証券会社に就職したんです。営業職で、自分はバリバリのキャリアウーマンになると思っていたんですが、証券業は向いてなかったんですね。子どもの頃からものづくりが好きだったので、いつかものづくりで食べていきたいと模索しました。ある日、外出していたときに天井のシャンデリアが目に入りました。鉄でできていてすごくすてきなんです。そこは三津屋というカフェだったんですが、マスターに「どこで買ったんですか?」と聞いたら、「自分で作ったんだよ」と。こんな作品が作れるんだ、と驚いて、「私も作りたい、教えてください!」と頼みましたが、「女の子には無理だよ」と断られました。
前田
ああ懐かしい、カフェ三津屋の光村孝治さんですね。もう亡くなられましたが、有名な鉄のオブジェの作家さんですね。
岡本
そうなんです。普通は一度断られたら2回トライする人は少ない。2回断られたら3回トライする人はもっと少ない。でも私は、断られても断られても「教えてください、教えてください」と頼み続けました。三津屋に行く度に言うとうるさがられるかなと思い、3回に1回くらい言うようにして(笑)言い続けました。10回どころじゃないですよ。ついに、「じゃあ手伝ってみるか?」と少しずつ手伝わせてもらうようになりました。初めてやったのが、玄関まわりのコンクリートを壊す手伝い。師匠は店舗や住宅の内装デザインと施工の注文も受けていたので、そのデザイン図を描いて、タイルでモザイク作りをするのを手伝いました。そこからは証券会社を辞めて、アルバイトをしながら師匠の手伝いをして鍛冶を教わりました。鉄ですから重たいものを担いだり大変でしたが、せっかく教えてもらえるようになったのにここで音を上げたらもったいないと、ふんばって続けました。
作り続けるうちに
表現できる幅が広がった
表現できる幅が広がった
前田
ご自身では最初はどんな作品を作られたのですか?
岡本
最初は照明器具を作りました。それを師匠の展覧会に置いて展示してもらいました。初めの頃は素材を思ったように曲げることができなくて。どうやったらどう曲がるかということが、まだ分からなかったんですね。たとえば唐草模様のようにするのは難しいんです。ジグ(型)に入れて作らないと形が均一にならなかったり、鉄に火が充分に入っていないところがあると、そこがうまく曲がらずカクカクしてしまったり。あとは、自分の叩く手の癖で曲がりやすい向き、曲がりにくい向きや角度があったりします。今は叩く力もあるし、コツもつかめて少しの度数でも滑らかに曲がるようにできますし、ピンポイントでも直せます。あとはテーブルの脚が4本あれば、今は全ての脚を同じように作ることができます。長年作り続けて、今ではできることも増えました。
前田
独立してアトリエを構えられたのはいつ頃ですか。
岡本
師匠が亡くなった翌年に独立しました。三津屋の方は息子さんが継承されたので、私は引っ越して自分のアトリエを一から作り上げる形で独立しました。今から20年前になります。
前田
鍛冶職人という本業と違うところで、CMなどにご出演なさっていますね。
岡本
はい、2011年の資生堂エリクシールのCMに出演しました。ああいう依頼って突然来るのでびっくりしましたね。当時、“働く女性” “輝く女性”などのテーマが注目されていて、なかなかイメージに合う方がいらっしゃらなかったそうなんです。その頃私が作品を制作したパセーラの関係者が、「広島にはこんな人がいますよ」と紹介をしたところ、働く女性・ものづくりというイメージがCMに合うということで、依頼を受けて出演しました。2013年には金麦のCMに出ました。資生堂のときの女性監督から、広島の牡蠣小屋で大勢がワイワイ飲んでるところを撮るというので、エキストラだろうと思って気軽な感じで行ったら、主役になっていて(笑)。4時間の撮影で金麦をたくさん飲みました(笑)。
夢を持っていれば
いつかは叶うかも
いつかは叶うかも
前田
一般の方から、岡本さんの作品がほしいけどオーダーの仕方が分からないとよく聞きます。どういうふうにオーダーすればいいのでしょうか。
岡本
ふんわりしたイメージで依頼されることが多いですが、雑誌などでこんなのが好きだとか、サンプルを見て好きなものを教えていただけるといいですね。定番品の中から選んでいただくこともできますよ。
前田
岡本さんが今後やってみたいことはありますか。
岡本
海外の仕事がしてみたいですね。夢物語みたいですが。若い頃は公共空間の仕事がしたいと夢見ていたんです。それが今は叶っているでしょう。だから、海外での仕事という夢も、願い続けていればいつか叶うかなと思っています。そこを訪れる人々に特別感を持っていただけるような作品が作りたいです。
前田
最後に、住まいについてお聞かせ願えますか。岡本さんが“いいな”と思うのはどんな住まいでしょうか。
岡本
漆喰などの塗りを使った家が好きですね。私の師匠は鉄工芸作品の制作の他に住宅のプロデュースや内装もしていて、そういった家も手掛けていたんです。経年変化を楽しみながら、オブジェを飾ってその影が塗り壁に映るのも美しいですね。
前田
私どもも18年くらい前から、リフォームに漆喰や珪藻土などの昔ながらの自然素材を使うことに取り組んでいます。身体にもいいですから。
岡本
私のアトリエも、江戸時代からの牛舎と農作業小屋だった建物を、漆喰を塗ってリフォームしています。
前田
古いものはいいですね。鉄も、経年変化で錆が出ても、それが味わいになりますね。
岡本
ええ、鉄もちゃんと叩いてしっかりと作っているものは、そういう変化まで楽しんでいただけるんです。
前田
本当にそう思います。価値ある古いものを大切にしていきたいですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

ラフォルジュロン デコラシオン
鉄装飾家アーティスト
鉄装飾家アーティスト
岡本 祐季
profile/島根県出身で小学校入学前から広島で暮らす。
海も山もあり、緑と自然に恵まれた広島を拠点に活躍。
官公庁・大手企業から依頼される大型オブジェから、暮らしに根差したインテリアまで、「光と影」をテーマに鉄の作品を手掛けている。
海も山もあり、緑と自然に恵まれた広島を拠点に活躍。
官公庁・大手企業から依頼される大型オブジェから、暮らしに根差したインテリアまで、「光と影」をテーマに鉄の作品を手掛けている。
